喉頭周辺の外傷後に声が出し辛い方へ【緊急案件】

事故、転倒、スポーツ、ケンカなどで喉周辺に強い外力が加わった場合、声が出し辛くなったり、裏声が出なくなったり、飲み込みが不安定になったりすることがあります。

 

すぐに耳鼻咽喉科や整形外科で診察を受けましょう。

 

それでも解決しない場合は、当サロンが役立つかもしれません。

 

触知検査によって、軟部組織の微細な損傷を見つけ出します。

 

その後、適切な処置を施します。

 

なお、外傷による不調は、受傷後の時間経過と共に改善が困難になります。

 

なぜなら、損傷部位の出血や滲出液により、瘢痕化してしまうから。

 

瘢痕形成により、周囲の発声関与筋や嚥下摂食関連筋の動きが制御され、発声し辛くなったり、高音が出なくなったり、飲み込みが悪くなったりします。

 

したがって、出来るだけ早くお越しになることをおすすめします。

 

受傷後1か月以内で、喉頭周辺筋の外傷ケアを希望される方は、紹介者は必要ありません。

 

緊急案件として、可能な限り素早く対応できるよう日程を調整します。

 

予約時に、その旨をお伝えください。

 

命に関わるようなトラブルではありませんが、「何だか気になる」がずっと続くのは、良い気分ではありませんからね。

 

 

 

※以下の写真は患部安静のための弾性テーピング貼付の様子。状況に応じて頚椎カラーや包帯も使用します。 

※喉頭周辺筋は複雑かつ繊細なため、完璧な快癒をお約束することはできません。

発声練習後に高音が出なくなった【輪状甲状関節脱臼】

実話です。

普段は、思い通りの高音を発している男性シンガー。

ボイストレーニングで、顎を突き出し、首を後屈した状態で、最高音を出す訓練をしていました。

ある瞬間、これまで経験したことのないほどのハイトーンレンジまで、ググっと高音が出たそうです。

その後、再トライしたところ、同様の超高音が出なかったと同時に違和感を覚えました。

そこで、普段、容易に出している高音を試したところ、「あれっ、出ない!」と驚愕しました。

彼は焦りました。

何度試してもダメだったのです。

翌日になれば元に戻ると考え、その日のレッスンは終了。

しかし、何日経過しても高音は出ません。

そこで、音声専門の耳鼻咽喉科で診てもらいましたが、「声帯は問題ない」と言われ、途方に暮れていました。

知人の紹介で、当サロンにお越しになりました。

わたしが触知したとき、何が起こったのか一瞬で判断できました。

片側輪状甲状関節脱臼・・・

つまり、甲状軟骨下角の一つが輪状軟骨関節窩から逸脱していたのです。

そう、これはケガ。

負傷してから、2週間しか経過していなかったため、脱臼の整復は容易でした。

この歌手の場合、典型的な前方脱臼だったため、輪状軟骨を下方転移して反対側へ回旋させながら上方移動させると同時に、甲状軟骨下角を指で圧をかけながら脱臼痕をトレースして輪状軟骨関節窩へ優しく導く。

重要な注意点があります。

極微細な力加減で行わなければ、⑴ 滑膜断裂、⑵ 関節軟骨破損、⑶ 甲状軟骨下角不全骨折、⑷ 逆方向再脱臼など、誘発されるケースがあります。

無茶な高音発声の後に、いつもなら簡単に出せる高音が出なくなったら、輪状軟骨関節脱臼または亜脱臼を疑ってください。

その際は、喉頭外傷の処置に長けた先生にお願いしましょう。

それも出来るだけ早急に!

 

追記1:輪状甲状関節脱臼を放置すると、その先、高音発声が困難になってしまいます。目安は約1か月。昔、負傷から数年が経過した陳旧例にも出会いました。輪状軟骨関節窩の数ミリ外れた場所で甲状軟骨下角が固着して、関節可動域は皆無。それでも、声帯ヒダを硬直させて高音発声する能力を身に付けたようですが、ピッチのコントロール性は低下し、歌唱行為から離れてしまいました。

 

追記2:「脱臼すると痛いですか?」と問われます。これまで二十例近く対応していますが、多くは違和感程度。ときに軽微な痛みがあることも。無痛も多い。だから見逃しやすいのですね。また、高音発声は大変になりますが、日常生活の会話声は概ね問題ありません。これも、ほったらかす一因となるでしょう。

 

追記3:披裂軟骨脱臼も存在しますが、これは気管挿管などによる直接的外力が主要因となります。今回お話しした輪状甲状関節脱臼とは、部位も受傷メカニズムも異なります。なお、過去に、交通事故や転倒叩打による外傷性輪状甲状関節脱臼に遭遇したこともあります。

 

追記4:「會田先生は輪状甲状関節脱臼を必ず整復できますか?」との質問に、「すべては無理です。新鮮例の多くは可能ですが、陳旧例は難しいと考えます」と回答しました。

ある歌手の輪状甲状筋外傷

先日、高声が出難くなったと訴える歌手 (J-POP) がお越しになりました。

専属ボイストレーナーから喉のセルフマッサージを教えられ、昨夏から実践していたそうです。

話を聞くと、かなり滅茶苦茶。

力任せに、ゴリゴリ、ガンガン・・・

目視による確認はできませんが、外皮から触知検査を行ったところ、左輪状甲状筋に微細筋断裂の形跡を発見しました。

小規模ですが、内出血により瘢痕化が進み、古傷だとわかります。

さらに詳しく調べた結果、垂部は甲状軟骨付着部付近 (A) が、斜部は輪状軟骨に近い筋腱移行部 (B) が、負傷した模様。

右輪状甲状筋には問題がないため、動き (筋収縮) に左右差が生じ、声帯ヒダ伸長のタイミングが崩れ、高音が出難いのはもちろん、声門からのアンコントローラブルな息漏れ (意図しない嗄声) にも悩まされる結果となりました。

そこで、輪状甲状筋用の微細ストレッチと加温振動で瘢痕部に新生毛細血管による再生化を促すと同時に、輪状甲状筋健常部位の筋力強化を目指す施術方針を提案しました。

このようなケースに何度も遭遇していますが、経験則から改善率は50%程度です。

つまり五分五分。

彼の声の康寧を願うばかりです・・・

 

追記:負傷状況から1年近く経っていると考えられます。そのため、力づくによる高音発声の習慣が癖となり、喉頭全体が深奥化していました。つまりLDP (ラリンクス・ディープ・ポジション) 。自由闊達な元の発声まで戻すのは、相応の時間を要し、なかなか大変だと感じています。受傷時、痛みを感じるのは稀で、ほとんどが違和感程度か無痛のため、気づくのが遅くなるのも当然ですが、もう少し早い段階で対処していればと、残念に思うばかりです。〔本人許可により掲載〕

中間介在腱部分断裂

あるボイストレーナーによるレッスン中の出来事。

喉を上から下に強く押さえ込みながら発声する練習をしていたところ、ピキッと音がした瞬間、「痛い!」と叫んだそうです。

その後、痛みは無くなり、声は出るものの、無声時および発声時を問わず違和感が残り、心配になって当サロンに連絡がありました。

喉頭外傷の可能性が高いと判断し、早急にお越しいただきました。

詳しく検査したところ、中間介在腱(線維輪)の一部断裂を認めました。

それも左右共に。

不幸中の幸いなのは、完全断裂ではなかったことですね。

早速、テーピングと頚椎カラーで固定。

無駄な発声を控えるよう言い渡し、嚥下アクションが小さくなる食事法を指導しました。

五日間の安静固定を目指し、テーピング貼り換えのため、毎日お越しになります。

受傷して間もない処置ゆえ、1か月程度で良くなるのではと考えています。

お大事に・・・

 

追記1:中間介在腱は結合組織性ワナと称される場合もあります。では、なぜ、ここが負傷しやすいのか? 絵図の顎二腹筋と茎突舌骨筋の位置関係にあります。茎突舌骨筋の舌骨付着部の手前で、筋腹が二股にわかれ、その間を顎二腹筋が入る構造。舌骨を無理やり下げる行為により、顎二腹筋と茎突舌骨筋の二つの筋肉によって、中間介在腱(繊維輪)への負荷が2倍になると予想されるからです。

 

追記2:最近、喉頭外傷が増えているように思います。要因は、いろいろあるでしょうが、動画などで、安易に無茶な発声法を試すことも一因ではないかと感じています。

 

追記3:あらゆる喉頭外傷は、受傷後、1か月を超えると、改善が困難になります。外喉頭周辺の軟部組織は、痛みの感覚も鈍麻ゆえ、気づかずに、普段の会話や歌唱で、さらに飲み食い(嚥下摂食)で、傷口を広げてしまう。その傷は、いずれ瘢痕化して、発声運動を邪魔するかも。おぉ、恐ろしい・・・